2018年2月13日火曜日

Session1-1 赤い収穫亭で

二人は傭兵、毒蛇は賞金稼ぎ
 
ここではないどこか。今ではないいつか。
 戦乱に揺れるある大陸に二人の傭兵がいた。剛力のゴンザと長弓のヨイチ。二人は腕を頼りに戦場を渡り歩いて商売をしていた。戦がないときにも――そんな時にはこの大陸には正確にはないんだが。――二人の腕を必要とする者は少なくなかった。
 二人は毒蛇と綽名される若き売出し中の賞金稼ぎに雇われていた。三人の暗殺者を狩るために。
 暗殺者を追い三人はドゥークス王国の王都にある”赤い収穫亭”という酒場に向かっていた。毒蛇が言うには”赤い収穫亭”は暗殺者たちへ仕事を斡旋している場所だという。最近ここに例の暗殺者たちが出入りしていたという。恐らく仕事を請け負った筈だ。標的を知ることができれば暗殺者たちがどこに現れるかわかるはずだ。
 二人は毒蛇と相談を始めた、斡旋所からどう情報を得るかについて。買収、交渉、暴力という3つの案がヨイチからでた。毒蛇には奴らを買収できるほどの金はない(二人への報酬すらも三人の懸賞金で支払う出来高払いとなっているくらいだ)、客を売らせる程の交渉する材料もない。
 二人と毒蛇は一旦、その物騒な旅装をといた(ゴンザは戦鎚に盾、ヨイチは長弓に槌矛を得物にしている、二人ともよほど敵の脳漿を見るのが好きらしい)。そして短剣だけを懐に忍ばせ”赤い収穫亭”の監視と情報収集を始めた。
 聞き込みの結果、次のことがわかった。
 店は、店主と下男の爺さんが二人で切り盛りしているが、用心棒が五人いる。
 店主には家族はいないよう、下男の爺さんが住み込みで世話をしている、用心棒は仕事が終われば帰る。
 ゴンザが言った。
 「主人の顔や中の様子も確かめたい、とにかく客として中に入ってみよう」
 「そうだな」
 ヨイチが答えた。
 「俺は三人に顔を知られている、中に入らないほうが良いだろう」
 毒蛇が言った。
 「向かいの店で見張っていてくれ」ヨイチは言い、二人は赤い収穫亭に入って行った。
赤い収穫亭の中は、そこそこの客で賑わっていた。四十代位の人の良さそうな主人と下男の爺さんが忙しく給仕をしている。そして店の規模には不釣り合いな五人の用心棒が剣呑な表情で店の中に散らばっている。ゴンザは用心棒の視線を感じた。
 二階は宿になっている。主人に聞くと部屋は空いていると言う。二人は部屋をとった。
 ヨイチはその事を毒蛇に伝えに一旦店を出た。毒蛇は向かいの宿屋で待っている。用心棒の一人がヨイチの行動を確認しているのをゴンザは気がついた。
 商売が終わり、用心棒が帰った頃を見計らって、二人は毒蛇を中に迎え入れ主人の部屋に向かった。毒蛇は下男の爺さんを念の為に抑えに行く。
 二人は主人の部屋をノックする。不審がる主人だが部屋には招き入れられた。
 ヨイチは部屋に入ると、ズバリと交渉を始めた。出すものは出すから三人を売れ、という交渉だ。主人はのらりくらりとここはただの酒場だの一点張り、暫くすると何か飲みますかと戸棚から酒瓶を取り出した。ゴンザはその時に不自然な動きを見逃さなかった。二人に酒を勧める主人を無視して戸棚に近づく、戸棚の奥にはどこかへと繋がっている紐が。
 ゴンザは素早く主人を取り押さえ、ヨイチは短剣を喉元に突きつける。
 「お前らここがどこだがわかってんだろうな」
ヨイチは主人の声を後ろに、毒蛇がいる斜向の下男の爺さん部屋の扉を開けた。中では、毒蛇が下男の爺さんと激しく短剣を交えていた。部屋は狭く加勢はできない。上の階から大勢の人間が降りてくる音がした。二人は廊下で短剣を構えてまった。すぐに例の五人の用心棒だと分かった。
 狭い廊下なので多勢でも一対一だ、ゴンザが引き受ける。ヨイチは主人を部屋から引きずり出し、短剣を突き刺し悲鳴をあげさせ、武器を捨てろと叫ぶ。
 下男の爺さんの部屋から構わねぇ!殺せ!と返事があると、一瞬怯んだ用心棒たちはすぐに戦いを再開した。
 数分後には五人は死体に変わっていた。ゴンザとヨイチは大した手傷も負わず「俺たちは手練だな」などと軽口を叩いている。下男の爺さん―ここの主人の爺さんは短剣を捨て、降伏した。三人は爺さんを拉して毒蛇のアジトへ向かった。
 毒蛇は爺さんを痛めつけて三人の暗殺者の事を聞き出した。三人の次の的は王都の政商バンボク、依頼人は白い男。
 三人は爺さんを殺して川に投げ込むと王都へ向かった。
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