2018年2月25日日曜日

Session1-3 ゴブリンの大呪術師

二人は傭兵、毒蛇は賞金稼ぎ 

その森は妖魔の森とも呪術師の森とも呼ばれている。
 そう呼ばれる所以は、ゴブリンの大呪術師がオークとゴブリンの軍勢を率いて、その森一体を支配しているからだ。三人はそこに逃げ込み傭兵団・雷鳴の追跡をかわすはらづもりだ。
  その逃避行の合間にヨイチは毒蛇に問いただした。毒蛇の答えはこうだった。
 「俺の本当の名はフリーアンス・スチュワート、バンクォー・スチュワート将軍の息子だ。父はかって王国の北方の国境を軍団を率い守っていた。北の守護者と呼ばれた英雄だった。だが15年前盟友だったフラット家(主流派の有力貴族の一党)に暗殺者を送り込まれ殺された。俺のその時殺されるところだったが、今もこうして生きている。そしてまた奴らに殺されかけているわけだ」
  三人は森から開けた平原に出たこの平原を越えると、呪術師の森だ。毒蛇は地に這い耳を澄ますドワーフたちの足音は遠いが聞こえなくなることはない。三人は森に入った。ヨイチは破れかぶれだとつぶやいた。
  森に入って小一時間も立たないうちに、ヨイチは回りに気配を感じた。そして三人は強烈な眠気を感じそのまま意識を失った。
  次に目を覚ますと体が動かない。どれくらい眠っていたのか。全身を縛られているようだ、そして揺れている。何かの背に乗せられて揺れている。その何かのひどい悪臭のせいで目が覚めたようだ。
  そのまま暫く何も出来ず三人は森の奥にある山塞に運ばれた。山塞は主に木材で作られているが強固な作りで、200から300人程度の部隊が駐留できる規模だろうとゴンザは検討をつけた。
  そこで何モノかに引きずり降ろされる。そこで初めて乗っていた動物が巨大なイノシシである事を知った。三人を引きずり下ろしたのはオークの戦士だ、それも飛び切り屈強な。
  三人は引きずられ山塞の中に連行された。簡素な書斎のような部屋に三人は投げ込まれた。
 書斎には机が置いてありそこに足を投げ出したゴブリンが座っている。そのゴブリンは上半身は裸でありその裸身には奇妙な紋様が描かれている。そして見たこともない赤い目をしていた。赤い視線は毒蛇に注がれていた。 ヨイチはすぐに、そのゴブリンに話しかけた。
「助かったよ、薄汚いドワーフ共に追いかけられていたんだ」
  ゴブリンは言った。
「知っいる、俺に挨拶もなくこの森を突っ切る気でいたのか?お前らの事は知っているが、そりゃ少々無謀ってものだろ。……  あんなオマケを連れてきやがって。もうあの連中、お前らを引き渡せと言ってきたぞ」
ヨイチは言った。
 「金でなんとかならないか。」
「金?お前らが俺を満足させられる金を持ってるわけがないだろう、さてどうするか?俺が指をぱちんと鳴らせば、そこの腕こっきのオークがお前らの首を切り落とす、なんてことはない。しかし糞ドワーフ共の言う通りにするのも癇に障る。」
 ヨイチは言った。
「あんたは政治に興味はないのか?」
「政治ね、あったらどなんだ?」
ヨイチは毒蛇に目で合図すると、毒蛇の出自を語り始めた。しかしすぐにゴブリンはその話を遮った。
「知っているよ、その男が誰だか知っている。フリーアンス・スチュワート、あの虐殺を生き延びたスチュワート家唯一の男子。北方の守護者の正統なる長子。将軍が率いていた北方の軍団は、北の荒れ地に身を隠しその長子が立つ日を待っていいると言うじゃないか。」
  ゴブリンは机の上をコツコツと指で叩きながら暫く考えていた。三人は待つしかなかった。しかしこのゴブリンがドワーフの要求を飲むとは到底思えなかった。 ゴブリンは突然言った。
 「良いだろう、お前らに俺の魔力と軍団を貸してやろう。あの糞ドワーフ共を皆殺しにしてやろう。前ら一人に一つ貸しだ」 ゴブリンの呪術師―ラギはすぐに部下たちに戦の準備をするように伝えた。すぐに山塞は喧騒に包まれた。
 「お前らが部隊を率いろ」ラギはそう言って部屋を出ていった。
 入れ替わりに人の言葉を喋るオークが来て、三人と戦の相談を始めた。ヨイチは言葉が通じない事による命令の伝達の不備を心配したが、オークは人間の言葉を喋る副官と伝令を複数配置するので心配するなと言った。ゴンザは武器庫でプレートメイルを身に着け戦の準備を始めた。
  ラギは森の外の平原で駐屯している雷鳴に200人のゴブリンの軍勢をぶつけるつもりのようだ。銃を持っている雷鳴と平原で会戦する気のラギに、ヨイチは異を唱えたがラギはにべもなく言った。
「奴らが銃を持ってるのは知ってる、早く準備しろ」
  ゴンザはゴブリン長槍歩兵隊、ヨイチはゴブリン弓兵隊、毒蛇は巨大な蜘蛛に騎乗したゴブリン騎兵隊(毒蛇は隊長の蜘蛛の後ろに乗り指揮を執る事になった)をそれぞれ率い平原に向かい出発した。ラギはこの山塞の主力――オークの部隊――を戦場に出す気はないらしい。
  傭兵団・雷鳴は総勢100人の軍を3つの部隊に分け、平原でゴブリン軍団を待ち受けていた。中央に主力の歩兵部隊50人、右翼に歩兵部隊20人、左翼の少し離れた位置にマスケット銃部隊30人。
 対するラギのゴブリン軍団の陣容はこうだ。中央にゴンザのゴブリン長槍歩兵隊100人、右翼に毒蛇のゴブリン蜘蛛騎馬隊30人、左翼にヨイチのゴブリン弓兵隊70人、ラギは騎馬隊の横にある少し小高い丘に一人陣取り、これから起こる惨劇の事を考えせせら笑っていた。
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