2018年12月18日火曜日

Session4-2 地下の神殿

獅子の帰還

ゴンザは二人の名を呼んだ。ゴンザが二人を最後に見た時、二人は12歳と8歳であった。今では19歳と15歳となり二人とも成人している。
 ゴンザの全ての記憶が蘇った。ゴンザは黒き狼の戦士であった。若き日には砂漠に住み人々を石に変える恐るべき魔物――コカトリス――を倒し”砂漠の獅子”の称号を得るほどだった。妻を娶り二人の子供にも恵まれた。そして今の息子同様、次の部族間の主導権をきめる決闘の代表戦士に選ばれた。そして黒き羊の偉大な戦士ネムルを殺しその名声はさらに高まり、部族の筆頭戦士となった。数年後、ネムルの妹のウルムがゴンザに挑んだがそれもゴンザは殺した。
 しかしこのウルムの死がゴンザの記憶を失わせた原因であった。ゴンザとウルムは密かに愛し合っていたのだった。ゴンザはすでに妻子があったのでお互いの身体に触れたこともないが、確かに愛し合っていたのだった。ゴンザは愛した女を殺したことで心に深く傷を負った。そして妻子も、故郷も、記憶も捨て、傭兵の街フラットニードルへたどり着いたのだ。
 全てを思い出したゴンザは涙を流し二人の息子に詫た。
 アインは言った。
「お前のせいで母さんは、苦労して死んだんだ!怪物たちは俺たちで倒す、お前の手は借りない」
ただ頭を垂れるだけのゴンザと息子たちの間にブライが入り言った。
「我らは貴殿らの族長ラースに頼まれて、ここに来ている」
族長の名が出ると二人は渋々だが了承し、二階の自室に戻っていった。
 ゴンザは少し戸惑う二人に、自分の記憶が戻ったことや過去のことを話した。実はダハールもゴンザのことを良く知っており、説明に補足を加えた。
 話をしていると日は落ち夜になった。ダハールは帰っていった。三人は順番に眠ることにして、ゴンザを残し二人は眠った。
 真夜中、ひどい悪臭がゴンザの鼻をついた。ゴンザは二人を起こした。ブライは飛び起きるや三日月刀を静かに抜き、松明を手に匂いのもとの浴場に近づいた。ゴンザもブライの後を負いながら、ヨイチに目で合図した。ヨイチはアインの寝室へ向かった。
 ゴンザが扉を開けると、ブライは松明を部屋の中に投げ込んだ。排水口から緑色の煙が立ち上っている。それが人のような形をしている。
 二人は電光石火、緑の煙に斬りかかった!銀メッキされた二人の剣に切り裂かれた煙の魔神は苦悶の表情をすると、今度は霧が蒸発するように消えてしまった。
 二人は魔神を倒したのか否か少し戸惑ったが、すぐに次の行動に移った。ゴンザはヨイチの名を鋭く呼びながら、アインの寝室へ向かった。するとヨイチがこっちへ来てくれ!と叫んでいる。
 寝室の扉は開け放たれていて、二人が中に飛び込んだ。黒い影がアインの首を絞めていて、アインは必死に抵抗をしている。ヨイチはもう一体の黒い影と戦っていた。
 影をゴンザが剣で切り裂く、深々と切り裂かれた影はアインから手を離すと、二人に正対した。アインは床に倒れている。
 ブライは影を真っ向から一閃、切り裂いた。影は先程の緑の魔神と同様消え失せた。二人がアインに駆け寄ると気は失っているが死んではいない。ヨイチも影を片付けすぐに駆け寄ってきた。薬師の心得があるゴンザが手当をする。
 ブライは姿を見せないオゾンの寝室に向かった。扉の前で呼びかけても返事がない。ブライは寝室に入った。
 するとオゾンの姿はなく、寝室の床には脱出用の隠された扉があり、そこが開け放たれており、階下の倉庫がそこにはあった。ブライは中を覗き込むがオゾンはいない。とりあえずアインの寝室へ向かった。
 アインはゴンザの手当をうけ、すぐに目を覚まして言った。 
「あんたに助けられるとはな」
 そしてすぐに弟は無事かと訪ねた。ブライは部屋にはいない、秘密の通路からでかけたようだと答えた。
 アインはすぐにオゾンの寝室に走っていった。三人も後を追った。アインはこんな通路があるなんてと驚いている。そして下の倉庫に降りてみると、そこにも地下に通じる扉があった。
 ブライがアインに尋ねた。
「オゾンは黙って、よく抜け出すのか?」
アインは答えた。
「弟は黙って出かけた事など一度もない」
ゴンザが言った。
「俺が一人で様子をみてこよう」
そういうと倉庫にあった松明やロープを準備し始めた。
アインが自分もともに行くと、言ったがゴンザがそれを許さなかった。ゴンザは秘密の通路にひとり入っていった。
 通路の先は、この砂漠の首都の地下に張り巡らされている上水道であった。ゴンザが通路を先へ進むと前方にランタンの明かりが見えた。ゴンザは駆け出した。
 そこに居たのは一人の少年であった。少年はゴンザを手招きしている。
「おじさんがゴンザかい?伝言があるんだ。息子を返してほしかったら、この通路のさきにある神殿までやってこいってね」
ゴンザはすぐに案内しろと言った。
 少年は幾ばくかの金を要求した。ゴンザがその時間すらもどかしく感じながらも少年に金を渡した。少年は通路までの地図を渡した。ゴンザは少年にこのことを通路の先にいる仲間に伝えるように頼むと、更に少年を金を渡し、ひとり通路を先に進んでいった。
 少年はすぐに伝言をブライに伝えた。ブライは伝言を聞くとヨイチにあとを頼むと言い残し通路を駆け出していった。
 ブライはすぐにゴンザに追い付いた。そこは神殿の入り口らしき場所であった。その先は天井の高い通路となっており天井付近にはガーゴイル彫像がある。その奥には扉がある。
 二人は剣を抜くと中にはいっていった。ブライがすぐに通路に罠が仕掛けられているのに気がついた。その罠を避け二人は進んでいった。
 二人が出口に近づくと、彫像は動き出し二人に向い襲いかかってきた。高い天井を翼を広げ飛び回り、急降下して鋭い爪と牙で二人を攻撃した。しかし二人はその攻撃を躱し、ガーゴイルに斬りつけた。三度、四度とガーゴイルは急降下を繰り返したが、その度に身体を切り裂かれ、そして力尽きてしまった。
 二人は先に進んだ、扉を開け進んだ通路の先には、また先程と同じような部屋があった。
 しかし床は白と黒の正方形の石が交互に敷き詰められており、チェックの柄のようになっていた。その先の扉の前には弓と剣を持った骸骨の戦士がいた。二人が中にはいると床のブロックが上下運動をし始めた。白と黒のブロックが交互に上下しているのだ。二人はすばやくブロックの上を飛び跳ねるように、骸骨の戦士に近づいていった。骸骨の戦士も剣を抜いている。骸骨の戦士の剣技は恐るべきものであったが、ゴンザとブライに倒された。
 二人は更に先へと進んで行った。通路の先には大きな扉があった。その扉を開けるとそこは大きなホールになっていた。両脇には柱が並んでいる。ホールの向こう側には銀色の扉と上に向かう階段が見える。その扉の前に一人の男が立っていた。砂漠の部族の伝統的な鎧を身にまとい、剣を持っている。その傍らには縛られたオゾンがいる。そしてオゾンを守るようにあの影がいる。
 男が言った。
「待ちかねたぞ」
ゴンザは男の顔をみて驚愕した。それはゴンザがかってその手で殺した男であった。男の名はネムル、黒き羊の偉大なる戦士、部族の誇りをかけ二人は戦ったのだ。
ゴンザは驚愕して叫んだ。
「ネムル!」
「貴様に復讐する機会をまっていた。妹の仇だ!」
ゴンザは言った。
「見損なったぞネムル、偉大なる戦士出会った貴様がこんな卑怯な手を使うとはな。正々堂々と我と戦え!」
 ネムルは剣を抜き、剣で後ろの扉を叩いた。すると扉が開き一匹の獣がそこから出てきた。
 それは異形の獣であった。一見、それは獅子に見える。大きさは普通の獅子よりも一回りか二回りか大きい位の大きさである。しかしその尾はサソリのような形状をしている。そしてタテガミの中心には獣の顔でなく人の顔があった。
 ゴンザはこの異形の獣を書物で読んだことがあった。マンティコアと呼ばれており、人と同じ知性を持ち、魔法の力を使うという。恐るべき存在であった。
 その顔を観たゴンザが再び驚愕した。その顔は彼の死んだ妻のものであったのだ。ゴンザは怒りの叫びを発した。ネムルは冷笑していた。マンティコアは悲しい目でゴンザを見ながら言った。
「なぜ、私たちを捨てていったの」
「これはどいうことだ!こんな事は聞いていないぞ!」
 オゾンが叫んでいる。ゴンザとネムルは激しく戦い始めた。
 ブライは三日月刀をクルリと回転させながらマンティコアの前に立った。ブライは漠然とだが勝機があると見ていた。ブライは以前に野生の獅子を見たことがある。マンティコアには野生の獅子にない鈍さがあった。身体が普通の獅子よりも大きいせいもあるだろうが、人の顔をしていることにも、大きな原因があるだろうとブライは考えた。人はどうしても獣にはなれない。相手が野生の獅子ならば万に一つも勝ち目がないが。人であれば勝機はある。
 マンティコアが襲いかかってきた。ブライはその爪とサソリの尾を素早く躱し、三日月刀で斬りつけた。思った通りその速さは飽くまで人並みであった。
 ゴンザとネムルの戦いは直にネムルの劣勢が明らかとなった。以前はほぼ互角であったが技量であるが、今では歴然とした差があった。傭兵として幾多の戦場で戦い続けてきたゴンザの技量は以前より数段上がっていた。
 技量の差を感じたネムルは素早く背後に飛び退ると、何かを念じた。するとネムルの身体が膨れ上がるように大きくなった。着ていた革鎧が破けてしまうほどに。背中から大きな翼と爬虫類のような尾まで生え、異形の化け物と化してしまった。
「奥の手を使おう」
 ネムルは言った。
 ゴンザはその姿に一切動じることは無かった。ネムルはこれで勝てると油断し一瞬の隙きを見せた。ゴンザがその隙きを見逃す筈はない。上段に構えた剣を振り下ろした。真っ向から竹割り、ゴンザの剣戟はネムルの頭蓋骨を叩き割るように切り裂き、刃は喉にまで達した。ネムルはどっと倒れた。
 その倒れる音を聞いたブライはゴンザが勝ったと感じた。この化物を仕留める頃合いだと感じた。ゴンザとこの化物を戦わせるわけにはいかない、とブライは思っていた。
 マンティコアの足は傷ついて動きは鈍っていた。ブライは隙きを見つけるや、マンティコアの顔に深々と三日月刀を鍔まで突き刺した。ゴンザは妻の名を叫んだ。怪物は死んだ。
 オゾンの近くに居た影の化物は銀の扉の向こうへと逃げていった。ゴンザはオゾンを殴りつけた。ブライがゴンザを止めた。ブライはゴンザを落ち着かせると館に戻った。
 そしてオゾンに事の次第を話せさた。この事件はネムルとオゾンが図ったものであった。オゾンはアインは筆頭戦士なってもらいたかった。そこにネムルが突然現れた。二人の計画はこうだ。魔物に候補者たちを次々と襲わせる。そうすれば族長はゴンザを呼び寄せるだろうと考えた。ゴンザが最近バジリスク退治をした噂が砂漠の王国にも伝わってきていた為だ。
 アインがオゾンが計画に関わっていた事は内密にしてくれと頼んだ。ブライとヨイチは了承した。ゴンザはただすまぬとだけ言った。
 翌日、ラースに三人は報告をした。オゾンのことは黙っていた。ラースは三人をこの国の軍に誘った。ゴンザはラースに記憶が戻ったことを告げ、自分にはその資格がないと固辞し深く詫た。ブライもヨイチも砂漠の王国の軍には魅力を感じなかったようだ。
 試合の当日、黒き羊の部族は代表を出さなかった。理由はわからない。アインは黒き狼の代表と駱駝の早駆けをし勝利した。
 三人は報酬をえると砂漠の王国を後にした。
 
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